SSブログ

2人のジャック [そういえば僕は南仏に住んでいたんだっけ]

僕が南仏エクスに住んでいた頃、ジャックという名の友人が2人いた。2人の共通点は名前だけでなく、彼らの奥さんは揃って日本人だった。友人とは言っても僕より結構年上で、にもかかわらず、2人ともtutoyer(対等な言葉遣い。フランスでは年齢にこだわらず、よくある)の間柄であった。

エクス滞在時の最後のへんはばたばたしていて、お世話になった人にろくに挨拶も出来ずに帰ってきてしまった。とにかくフランスに住んでいたときは、果たして博士号が取れるのかという不安、そして博士論文が仕上がるまで貯金が足りるのかという不安に常に曝されていたので、最後のあたりは混乱していてすっかり不義理をしてしまったのである。

そのストレスから、時として過剰に慌ててしまう僕を、2人のジャックはそれでも暖かく見守ってくれていたように思う。少なくとも、僕の方では随分と精神的に助かっていた。

一人の目のジャックさんが亡くなったのは二年くらい前のことだ。悲しくはあったが、なにぶん随分と高齢だったし、闘病生活を送っていたのは知っていたので、心のどこかで彼の死を静かに受け止めていた部分があったように思う。だが、最後に会って世話になった礼を言い、ビールの一杯くらいは奢らせてもらいたかったな、という気持ちに駆られたものだ。

この夏の終わりに再びエクスを訪れて、2人目のジャックさんの死を知る。4月のことだったと言う。享年57歳。あまりに若すぎる死だ。言葉を失う。

エクスに住んでいた最後の時期は、ちょっとしたいざこざから彼の奥さんと娘さんとはぎくしゃくしてしまっていて、会う機会もそれほどなかったように思う。だが、彼らへの感謝の念は常に感じていたし、ジャックさんの優しさは決して忘れることができない。

奥さんは辛いだろうと思う。異国の地に生きる彼女にとって、ジャックさんはあまりに素晴らしく優しい夫だったからだ。

こんなことになる前に、是非、ビールに一杯でも奢らせてもらいたかった。しかし、まさかこんなに早く逝くとは思わなかったのだ。
nice!(2)  コメント(2) 

nice! 2

コメント 2

yokonozo

若いですね。57歳だなんて…
若すぎますよね。
(日本は長寿すぎる気もしますが)

先日までの渡仏で、墓参できたのでしょうか。
by yokonozo (2008-09-28 15:47) 

黒木

xml_xslさま

Niceありがとう御座いました

yokonozoさま、

墓参りはかないませんでした。あまりの突然のことに、当地の人たちも混乱から抜け出せていないようでした。
by 黒木 (2008-09-28 15:59) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。