SSブログ

名須川さんのデカルト論@Web Tokai第四回 [文学について]

某大学出版局から出版予定の「モダン時代における人間観」予告連載第四弾は名須川学氏のデカルト論である。

http://www.press.tokai.ac.jp/webtokai/Ningen_04.pdf

実は名須川さんは私の友人であり、デカルトに一章を割くつもりならと、哲学分野の編者田上さんを差し置き僕からお願いして入ってもらうことにしたのだ。

僕は長いこと音律研究をやっていて専門である19世紀を中心に見ているのだが、やはりどうしても17世紀のデカルトやメルセンヌあたりまで遡ってやらなければいけないことに気がついて、さりとて自分一人でやるにはあまりも範囲が広すぎて途方にくれていた時に、まさにデカルトの音楽論をテーマに研究している氏に出会ったのである。まさに、僕がその時知りたかったことをおそらくは世界で一番詳しく解説出来る人だった。以来、交友関係を続けている。

さて、実はこの予告編のみならず完成原稿も既に戴いているのだが、そのレベルの高さに逆に困ったことになってしまったと思っていることを白状しておきたい。このような素晴らしい論考に比べ、編者の一人である自分の論文がみすぼらしいものになってしまうのではないか、と不安に駆られたのである。

この論集、哲学の分野の執筆者にはそれぞれ専門領域について担当してもらっているが、文学の分野の執筆者には専門分野を微妙にずらして書いてもらっている。例えば、僕はマラルメを中心とした19世紀詩学が専門だが、今回担当するのはカミュ/サルトル論争だ。これは学部生向けの入門書という企画を考え、自分の専門外のことを扱うことによって、専門家の間でのみ回っているややこしい問題系を多少なりとも分かりやすく提示出来るのではないか、と考えたのである。実際、文学研究の世界とは、哲学以上にややこしい専門用語の飛び交う世界なのだ。

名須川氏には最初本当に入門的な文章のつもりで依頼したのだが、出来上がった論考を読ませて頂くと世界でも最先端をいくデカルト論に仕上がっており、しかも学部生向けの書物ということも考慮に入れた極めて丁寧な解説になっている。もちろん、哲学なのですらすらと読み解けるというわけではないが、極めて良質で良心的な論考であることは確かだ。僕自身、専門のマラルメについて執筆したところでここまでのものを書けるかどうかといった感じなのである。

やはり原典をきっちり読み込んでいる人は違うな、と感じざるを得ない。例えば、デカルトにせよヘーゲルにせよ、所謂現代思想のファンの間では「近代における諸問題の戦犯」扱いを受け、極めて安易に批評の対象になることが多い。しかし、「デカルトを超える」あるいは「ヘーゲルの過ちを正す」ことを主張する論者は全くと言って良いほど原著を精読していないと言って良い。そういう状況の中で優れた研究者による論考を読めるのは素晴らしいことだと思う。

なお、ヘーゲルに関してはやはり素晴らしい執筆者を用意しているので是非期待していてもらいたい。


nice!(3)  コメント(6)  トラックバック(0) 

nice! 3

コメント 6

yokonozo

そういえば、デカルトもヘーゲルも、私の印象としては
批判の矢面にたつというか、
彼らを語るといえば大抵は批判から、
というのが拭えませんでした。
by yokonozo (2007-12-06 22:56) 

黒木

普通そうですよね。

でも、デカルトが音楽論から始まっていたなんてあまり知られていない事実だし、この論考においてはネオ=プラトニズムといったオカルティズムからの影響が解説されています。

デカルトはオカルトなり、なんて面白そうでしょ
by 黒木 (2007-12-06 23:08) 

yokonozo

>デカルトはオカルトなり、なんて面白そうでしょ

めちゃくちゃおもしろいです!!!
オカルティズムからって、それはすごく興味があります。
by yokonozo (2007-12-07 08:38) 

黒木

中世のスコラからの断絶と、フィチーノなどのルネサンス思想の影響関係ってことです。

ここに着目しているからこそ、彼は最先端なのです。
by 黒木 (2007-12-07 08:49) 

黒木

xml_xslさん、

ありがとう御座いました
by 黒木 (2007-12-07 21:40) 

黒木

たねさん、

ありがとう御座いました
by 黒木 (2007-12-14 07:31) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。