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白魔 [散文詩]

夢も希望もない人生を送っている。と書くと、では絶望に打ちひしがれているのでは、と思われるかも知れない。だがしかし、決してそんなことはないし、それどころか、ここエクスで、十分に楽しい日々を過ごさせていただいている。この至福の時においては、夢も希望もないかわりに、また絶望もないのだ。

かつての僕はと言えば、極度の幸福を感じると、何故だか、ふと自殺してみたいという思いが頭をかすめることがあった。もちろん、これぽっちも深刻な話ではないのだ。どうせ人間一度は死ぬなら幸せな時に死にたいなぁ、と、言い換えれば、そのくらい絶好調なんだ、という感情表現だったのかもしれない。

今は、あまり死んでみたいとは思わなくなった。その代わりと言っては何だが、精神の暗闇について思考を巡らせている。スキゾの果てに自殺で逝った友人のことを考えるにつけ、狂気について考えていたものだから、死にたいとは思っていなくても案外人は簡単に逝ってしまうものなのかもしれないな、と思い始めたのが、その契機となっているのかもしれない。

精神の暗闇、最初、こいつの色はてっきり黒いものとばかり思っていた。そしてそこに引きずり込まれてはいけないのだと。確かに黒いやつもあるだろう。しかし僕の思考が、わずかな光を求めてはいずり回り、やがてたどり着いた地点にあったのは、ただただ白いのっぺらぼうの空間だった。そう、僕はこいつを既に知っている。夢も希望も、そして絶望すらもなく、ひたすらにがらんどうな世界。敢えて名前を与えるなら、「白魔」とでも呼べるのだろうか、こいつは時折すっぽりと僕を包み込む。僕の頭脳は思考を停止して、僕は何とも言えない快感に酔いしれる。およそ形而上とはまったく縁のない世界。壁の背後を覗いてみても、ただひたすらに沈黙しかないのだから。

こいつの正体は未だによくわかっていない。ただ僕がマラルメ研究をしている要因の一つであることは確かであるようだ。


沈黙 [散文詩]

何処かで何かが、とてもとても、
  大きな音を立てて
 壊れている、と思うから
じっと、耳を凝らしてみるけれど、
聞こえてくるのは、ただ、ただ、
みしみしと音を立ててる、沈黙ばかり…


memento mori [散文詩]

僕らはとにかく若かった。そして残酷なくらいに馬鹿だった。いつも何かに怯えていたし、そしてそれを隠そうとして必死だった。

その頃の僕らにとって、死とか、恋とか、そんなものはただ単に、何やら訳の分からない彼岸を象徴していて、それが故に若い僕らの精神に何やら抗しがたい魅惑を投げかけていた、とでも言えようか。

今だったら、死という概念が所詮想像力の産物に過ぎないってことくらい、わかっている。実際この世で生を営んでいる以上、死はあくまでも僕らの向こう側にあるのであり、一回でもそれに触れてしまえば、二度とこちらの世界には戻ってこれはしない、ということも。そして僕らは自分がそう簡単には死なないということもわかっている。いくらそれを描こうと、いくら想いをいたそうと、それがフィクションの域を出ないことを了解している。僕らはオトナになった、と、そういうことだ。

だけれど。

僕らはとにかく若かった。そして残酷なくらいに馬鹿だった。正々堂々と何かを主張しているかに見え、その実、それを支える自信なんてこれっぽっちも持ち合わせてはいなかった。

僕らは、死が手を伸ばせばすぐに届く距離にあると思っていたし、そう信じてもいた。実際何人かの友人は、何の気もなしにそこへ手を伸ばし、そして二度と会わないようになってしまった。

今の僕らにはわかっているし、知り尽くしてもいる。

でも、僕は死を想うことをやめない。


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