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日仏ドラム対決 [フランス音楽事情(MAGMA、ZAO等を中心に)]

 フランスを代表するサックス奏者ヨシコ・セフェールとこれまたフランスを代表するジャズピアニスト、フランソワ・カーンと食事しながら、話していたときのことである。で、何を話していたかというと、彼らの日本公演の前座を務めた吉田達也氏のプレイスタイルについてであった。
 「彼のドラムどう思った?クリスチャンに似ていて面白いだろ。彼、MAGMAの大ファンなんだよ。」と僕。MAGMAとはクリスチャン・ヴァンデというドラマーが1960年代末に結成したフランスのジャズロックグループで、世界各地で熱狂的 なファンの支持を得ている。で、ヨシコもフランソワも初期の頃のメンバーだったのだ。
 ところが、彼らの答はと言えば、「彼とクリスチャンのプレイスタイルは全然違うよ。」というものだった。「いやいや確かにヨシダがクリスチャンに影響を受けているのは分かるよ。でも、ヨシダはすごくきっちり叩くだろ。クリスチャンはもっとアバウトに叩くんだ。まぁ、ヨシダのはロックで、クリスチャンはジャズということかな。」
 で、僕は、MAGMAが最初に来日した時に僕が通訳を務めたリットーミュージック、『ドラム・マガジン』のインタヴューを思い出した。クリスチャンは「私は常に3拍でリズムを取っている。2拍子系のロックの曲をやるときも、表面的には2拍で取っているように見えるかも知れないが、体の中では常に3拍でリズムを取っているんだ。2拍子系というのはとてもきっちりしていて自由がない。型にはまっている。対して、3拍系のリズムというのはより自由で、前にも後にもずらすことが出来るんだ。」と言っていた。
 そういう話をヨシコとフランソワにすると、「まぁ、そういうことだけど、問題なのは、クリスチャンがわざと頭を叩かないってことなんだ。」と続ける。「クリスチャンが3拍でリズムをとっているというのはそうだろう。彼は彼できっちりリズムキープしている。ところがわざと1拍目の頭を打たない。微妙に半拍だけ前や後にずらすんだ。だからベーシストは彼とやるのをとても嫌がるんだよ。」
 普通、バンドでベースとドラムはリズムセクションと呼ばれる。この2つがきちんとリズムという土台を築き、その上にピアノやギターが伴奏として乗り、更にその上にメロディーを奏でるヴァーカル、サックスなどが乗る、というのが基本的なバンドの構成である。で、リズムセクションがきちんとリズムを刻んでくれないと、それぞれの楽器がバラバラになってしまう。特にドラムはいわばオーケストラの指揮者のような存在なのだ。
 そこでドラムが頭の拍を打たないとどうなるか。メンバーのそれぞれが空白の1拍目を頭の中で取らなければならない、とういことになる。しかもそれぞれがバラバラに取っていたのではバンドは成り立たない。で、ずれが生じた場合、それを上手く誤魔化すことがベースに要求される、というのは決して珍しい話ではない。ベースというのはドラムと他の楽器を繋げるという役目を担わされることが多いのだ。サッカーで言うと、ドラムがキーパーもしくはディフェンスラインで、ベースはボランチということになるだろうか。だとすれば、クリスチャンと一緒にやるのを嫌がるとベースが多いというのも頷ける話である。
 そういえばMAGMAの現在のベーシストのフィリップ(僕とほぼ同い年で、クリスチャンからみると若い世代のミュージシャン)が「MAGMAに参加したての頃は何が何だか分からなくてすごい大変だった。」と言っていたのを思い出す。クリスチャンはドラマーなのだけれど、「歌ってしまう」人だ。それが彼の長所なのだけれど、MAGMAというグループでクリスチャンの「歌う」ドラムを支えているのが、ベースのフィリップとピアノのエマニュエルなのだ。


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